スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【--/--/-- --:--】 | スポンサー広告
秒速5センチメートル、再び(第三話)
 
今までに蓄積されたものが噴出する第三話だったと思います。


タカキは大人になってもまだ、『世界の秘密』を求めています。
己の無力さを知り、世界の広大さを知り、それでもいつかどこかに、世界の秘密という力があって、それを手に入れれば自由に生きられる。そう思っていた。


ただがむしゃらに働き続け、力を求めて、世界の秘密に近づこうとして、頑張って、がんばってがんばって。
けれど彼はじわじわと気付いていってしまったのでしょう。
『大人になったって無力さは解決されない』
『世界の秘密なんてどこにもない』
そういうことに。


その結果、何のために頑張っていたのか、何のために頑張るのか、あれほど自分を突き動かしていた動力のようなものがきれいさっぱりなくなっていることに気が付いて、もう限界だと思って、仕事をやめたのでした。


彼にとってアカリとは、『世界の秘密』の幻影です。
もはや彼の中でアカリは、アカリ個人ではなく、『無力だった自分を解き放ってくれる存在』として機能していたのでしょう。街角でも新聞でも、どこでもいつでも無意識にそれを探してしまう。
カナエの時と同じです。三年付き合った女性がいても、彼女のことよりも、仕事のことよりも、アカリ=『世界の秘密』の方ばかりを向いている。いつか自由になれる日を夢見て。


だけどそんなことは幻想だと、大人になったって自由なんかじゃないと、彼は薄々気づいているのでしょう。あの時のタカキはもう半死半生で、とどめをさしてくれる何かをずっと待っていたんじゃないかと思います。


そんな時に踏切で出会ったのがアカリです。
アカリはイニシエーションを終え、どうしようもない世界に対して既に折り合いをつけ、幸せに生きていました。出てきた手紙に対して彼女はこう思います。『私も彼も、まだこどもだった』。
彼女にとってすべては過去の良い思い出で、無力だった子供から無力な大人になって、その中で幸福に生きているのでしょう。
だから彼女は、振り返る必要がなかったのです。


一方のタカキは、無力な子供から無力な大人になり、行き場を完全に失っていました。
無力な子供から力ある大人になるはずだったのに、世界の秘密は見付からず、疲れ果て、自分を動かしていた原動力がなんだったのかさえ見失ってしまった。
そんな時、踏切でアカリの姿を見かけます。彼にとってアカリは世界の秘密であり、己の原動力であり、全ての根源だった。失われていった原動力、生きるための力、そういう全ての何かを見かけて、彼は最後に一つだけすがるように思います。


「今振り返ったら、きっとあの人も振り返る」


世界の秘密が目の前に現れたと思ったのでしょう。
もしかしたら何か力が手に入るかもと思ったのかもしれません。
全てが変わるような劇的な体験があるかもしれないと、そう感じたかもしれない。


けれど、アカリは振り返らず、行ってしまいました。
そこでタカキは漸く気付くのです。


アカリは世界の秘密なんかじゃない。
ただの女の子だ、と。


誰も特別な力なんて持ってない。世界の秘密なんてないし、どんな力があったって、自由自在に生きられたりはしない。苦しくならないなんてことは絶対にない。世界は無慈悲だし、自分はいつだって無力で、どうしようもないことばっかりだけれど、みんな、みんなそうなんだと。それでも生きてゆかれるのだと。


タカキの心に最後に残ったのは、きっと希望だったと思います。
イニシエーションの最後の段階。
世界の広大さを知り、己の無力を知り、そして最後に希望を持つ。
タカキのイニシエーションは終わりました。


秒速5センチメートルは、やっぱりイニシエーションを描いた作品だったと、わたしは思います。

 
スポンサーサイト
【2014/08/03 08:04】 | 未分類 | トラックバック(0) | コメント(0)
<<言の葉の庭 | ホーム | 秒速5センチメートル、再び(第二話)>>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

-->
トラックバック
トラックバックURL
http://ruriyayuki.blog34.fc2.com/tb.php/44-64f7f824
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
雪中花


プロフィール

中谷雪緒

Author:中谷雪緒
文章を書くのが好きです。
毎日幸せです。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。